言の葉なないろ

伝える言葉の練習です

薄情だなあ

ひいおばあちゃんが亡くなったのは、高校3年の冬だった。

 

おばあちゃん家まではずいぶん遠い。

 

飛行機と車で、たどり着くのに半日以上かかる。

 

田舎町の山のふもと。

 

もうすぐ受験だからとお葬式にはいかなかった。

 

行きたくなかった。

 

母の話だと、火葬のすぐあと、ちょうど雪がふったらしい。

 

煙突から立ちのぼった灰やけむりは、空へ舞わずに地へおりた。

 

おばあちゃんきっと、ここのままがよかったんだねぇ。

 

 

 

おばあちゃんが亡くなったのは、それから3年後のことだった。

 

イギリスに留学中だったため、お葬式に参列しなかった。

 

母の妹たちは大号泣していたらしい。

 

母は、喪主として、長女として、凛としておばあちゃんを送り出したとおもう。

 

私たちは20年近くおばあちゃんと同居していた。

 

渡英前から、おばあちゃんは長くないと知っていた。

 

覚悟して、出国した。

 

海の向こうで知ったおばあちゃんの訃報は、とても変な感じがした。

 

 

 

ひいおばあちゃんも、おばあちゃんも。

 

どちらの葬儀にも行かなかった。

 

大好きなおばあちゃんたち。

 

10年近く経った今になってこころが痛む。

 

受験だからってなんで行かなかったんだろう。

 

イギリスにいたからって、なんとしてでも帰ってくるべきじゃなかったか。

 

もう遅いのだけれど。

 

ごめんね。おばあちゃん。

 

ごめんね、ごめんね。

 

でもすぐに言葉を変える。

 

申しわけなくって。

 

おばあちゃんありがとう。

 

ありがとう。ありがとう。

 

生まれてきてくれてありがとう。

 

今わたしがいるのは、ひいばあちゃんとおばあちゃんのおかげ。

 

だいすきだよ、ありがとう。

 

 

ほんとうに薄情だなあ。

 

大好きなふたりの最期に会いに行かないなんて。

 

ほんとうは最期なんて会いたくなかったんだなあ。

 

絶対いやだったんだなあ。

 

だって、またきっと、一人で住んでるには広すぎるひいおばあちゃん家に泊まりたいし、おばあちゃんとなんでもなくにこにこ笑いあいたい。

 

だって信じたくない。

 

 

だから、どこか、ほんとに死んじゃったなんて実感がなかった。

 

悲しいより、さみしい。

 

でもきっと、そうやって目を背けてきたから。

 

10年近く経った今日。

 

なんでもないときに、涙がぽろぽろ。

 

なんだこれ。なんだこれ。

 

あぁひいおばあちゃん、おばあちゃん、もう会えないんだねえ。

 

いないんだねぇ。

 

悲しくって。

 

ずいぶん長いことかかってしまったけれど、やっと、受け入れたよ。

 

だから、いまさらだけど。

 

行かなくてごめんねと、たくさんのありがとうを。

 

きっとこの瞬間だって、ふたりは私たちを見守ってる。

 

 

みててね、これからも。

 

ちゃんと生きてくよ。

 

 

 

 

 

 

《おしまい》